「送れる子がいないんです」
児童養護施設の先生から返ってきたのは、そんな言葉だった。
費用は全額負担する。パスポートの取得も手伝う。現地でのサポートも全部やる。 それでも、「送れる子がいない」と言われた。
社会的養護の子どもたち——さまざまな事情で両親と暮らせない子どもたちを、留学に送り出したい。 その一心で立ち上げたNPOが、最初にぶつかった壁はあまりにも大きかった。
これは、NPO法人スマイリーフラワーズの話です。 そしてコールテン代表の向が、ここのAI顧問として全力で関わりたいと思っている理由でもあります。
でもその前に、この団体の代表である窪田さんがどんな人なのかを知ってもらいたい。 なぜこの人がこのNPOをつくったのか——その原体験を聞いたとき、 向は自分がここに関わる意味を確信しました。
「気にしなくてよかったんだ」
窪田さんは、お父さんと会ったことがありません。 お母さんと兄弟だけの家庭で育った。 経済的にも決して楽ではなかったそうです。
子どもの頃からずっと、自分の境遇をネガティブに捉えていた。 周りからもそう見られている——少なくとも本人はそう感じていた。 父親がいないこと、お金がないこと、それが自分の「普通じゃなさ」だと思っていた。
そんな窪田さんが、あるとき仕事を辞めます。 当時していたのは、厳しい肉体労働の仕事でした。 そこから一念発起して、オーストラリアにワーキングホリデーで渡った。
海外に出た窪田さんを待っていたのは、思ってもいなかった経験でした。
現地の人たちは、窪田さんの家庭環境なんてまったく気にしなかった。 父親がいないとか、お金がなかったとか、そんなこと一切関係ない。 ただ目の前にいる「窪田さん」という人間にまっすぐ向き合ってくれた。
そのとき、窪田さんの中で何かが弾けた。
「全然、気にしなくてよかったんだ」
よく考えたら、日本にいたときだって、 周りの人たちもそこまで気にしていなかったんじゃないか。 自分が勝手に壁をつくって、自分だけが気にしていたんじゃないか——。
留学という経験が、窪田さんの人生を根本から変えた瞬間でした。
しかし、窪田さんの人生はここからさらに大きく揺さぶられることになります。
遺書に書かれていたこと
オーストラリアから帰国した窪田さんは、留学会社で働き始めます。 自分が変わるきっかけをくれた「留学」という体験を、 今度は他の人に届ける側に回った。
そこで、窪田さんはとても辛い経験をします。
自分が支援していた方が、自ら命を絶ってしまったのです。
最初、窪田さんは怖かったそうです。 遺族から責められるんじゃないか。会社が悪いと言われるんじゃないか。 そんな不安が頭をよぎった。
でも、遺書にはこう書かれていました。
「会社には本当によくしてもらいました。 絶対に会社のことを責めたり、怒ったりしないでください」
遺族の方がその遺書を見て、窪田さんたちを責めることはなかった。
窪田さんは、崩れ落ちるような気持ちだったそうです。 こんなにいい人が、なぜ——。 こんなに周りを気遣える人が、なぜ自分のことは守れなかったのか。
この経験は、窪田さんの中に深く刻まれました。 社会の中で、いろんな課題を抱えながら生きている人たちがいる。 その人たちのために、自分にできることがあるんじゃないか。 いや、あるはずだ——。
オーストラリアでの経験と、この痛みが重なったとき、 窪田さんの中にひとつの確信が生まれました。
留学が人生を変えるなら、その体験をあの子たちにも
窪田さんが立ち上げたNPO法人スマイリーフラワーズの原点は、 とてもシンプルな問いから始まっています。
「自分は留学で人生が変わった。 だったら、同じような境遇にいる子どもたちにも、 その体験を届けられないだろうか」
社会的養護の子どもたち。 さまざまな事情から両親と一緒に暮らせず、 児童養護施設や里親のもとで育っている子どもたちです。
窪田さん自身がかつてそうだったように、 自分の境遇を「普通じゃない」と感じている子がたくさんいる。 留学という体験が、その子たちの視野を広げ、 自分の可能性に気づくきっかけになるかもしれない。 自分がオーストラリアで感じたあの解放感を、あの子たちにも届けたい。
志は美しかった。計画もあった。 費用の心配もさせない仕組みを考えていた。
でも現実は、窪田さんの想像を遥かに超えて厳しかった。
「送れる子がいない」の意味
冒頭で書いた、あの言葉です。
スマイリーフラワーズが児童養護施設を訪ね、 「費用は全部こちらで持ちます。お子さんを留学に送りませんか」と提案したとき、 施設の先生たちから返ってきたのは、感謝でも期待でもなかった。
「送れる子がいないんです」
留学に行ける状態の子がいない、という意味でした。
社会的養護のもとにいる子どもたちの多くは、 日常の中にたくさんの課題を抱えています。 パスポートを取るための書類すら揃わない子もいる。 そもそも「海外に行く」ということがイメージすらできない子もいる。 留学どころか、目の前の毎日を生きるだけで精一杯という子もいる。
「無料で留学に行ける」という好条件があっても、 それを受け取れる状態ですらない——。 これが現実でした。
この壁を前にして、窪田さんは圧倒されたと聞いています。 自分がやろうとしていることは、もしかしたら的外れだったんじゃないか。 そんな思いもよぎったかもしれない。
でも、窪田さんはここで止まらなかった。 ここからが、向がスマイリーフラワーズを本当にすごいと思う部分です。
「行けないなら、なぜ行けないのか」
留学に送り出せないなら、なぜ送り出せないのか。 その前に、この子たちにはどんな課題があるのか。 窪田さんはそこを本気で掘り下げ始めました。
多くのNPOなら、ここで方向転換するか、 「やっぱり難しかった」と活動を縮小してもおかしくない。 でも窪田さんは、留学の手前にある問題そのものに向き合うことを選んだ。
施設を出る前の子どもたちに自立のための研修を提供する。 施設を退所した後のアフターケアをサポートする。 一つひとつ、目の前の課題に取り組みながら、 子どもたちとの関係を地道に築いていった。
今では、福岡県内のほとんどの児童養護施設と関わりを持っているそうです。 自立研修、退所後の見守り、生活相談——。 「留学に送る」という当初のゴールの手前で、 ものすごい量の仕事を積み重ねている。
そしてその先で——実際に、留学に送り出す子どもたちが出てきている。 まだ多くはないと窪田さんは言うけれど、確実に、一歩ずつ前に進んでいる。
寄付に頼らない「事業型NPO」という覚悟
スマイリーフラワーズのもうひとつの特徴は、 寄付や補助金だけに頼るNPOではないということです。
一般の方向けの留学エージェント事業を、自分たちで運営しています。 いわゆる「事業型NPO」と呼ばれるスタイルで、 こうしたスタイルは、日本のNPOの中でも珍しい。
一般の留学サポートでお金をいただいて、 その収益で社会的養護の子どもたちの支援を回していく。 自分たちの足で立って、自分たちの事業で社会を変えていく。 その覚悟がここにはあります。
しかも、その一般向けの留学サポートが本当に素晴らしい。
ここで正直に言うと、向は留学エージェントが嫌いです。
向が大学生の頃、カナダのバンクーバーにワーキングホリデーで行きました。 そのとき、日本の留学エージェントは使わなかった。意図的に使わなかった。 当時、留学エージェントがお客さんのお金を預かったまま倒産するような話が相次いでいて、 業界全体の評判がとても良くなかった。 そうした背景もあり、エージェントに頼ること自体に抵抗があったのです。
だから、帰国してからスマイリーフラワーズに出会ったとき、 自分でも驚きました。
向がオフィスにお邪魔したとき、 後ろのほうで留学カウンセリングをしている声が聞こえてきました。 一人ひとりの留学生に、本当に親身になって寄り添っている。 形式的なヒアリングなんかじゃなく、 その人の人生に本気で関わろうとしている熱が、声から伝わってくる。
あの「エージェントが嫌い」だった向が、 「ここで留学したかったな」と本気で思った。 それくらい、ここは違う。
この団体に集まる人たち
窪田さんの人柄と志に惹かれて、 スマイリーフラワーズにはいい人たちが集まってきます。
スタッフの方々と話していても、 「この仕事が好きで、この活動に意味を感じている」という思いが、 言葉の端々から伝わってくる。 誰かにやらされてやっている人が一人もいない。
それは、窪田さんが自分の原体験を隠さず、 自分の弱さも含めてオープンに語れる人だからだと思います。 完璧なリーダーじゃない。 でもだからこそ、この人と一緒にやりたいと思える何かがある。
だから本気でここを応援したい
向がスマイリーフラワーズのAI活用を全力でサポートしたいのは、 単にクライアントだからじゃありません。
AIで事務作業を効率化して、 スタッフの皆さんがもっと本来の仕事—— 留学生一人ひとりと向き合うこと、 社会的養護の子どもたちの支援に注ぐこと—— にエネルギーを使えるようになってほしい。
もっとたくさんの「留学に行きたい」人たちとの出会いを生み出したい。 社会的養護の子どもたちの支援に、もっと力を注げるようになってほしい。
そして何より——社会的養護の子どもたちが留学に行き、 窪田さんがオーストラリアで感じたあの解放感を味わい、 「気にしなくてよかったんだ」と気づき、 自分の人生を自分で切り開いていく—— その瞬間を見届けたい。
「送れる子がいない」と言われた日から、 窪田さんたちは一歩も引かなかった。 壁の前で立ち止まるんじゃなく、壁の正体を見極めて、一つずつ崩していった。
だからコールテンは、本気でここをお手伝いしていきます。